研究所


ENGINEERS誌1997年12月号

「21世紀の製品安全とPLPを考える」シリーズ

製品安全で考える顧客満足度


 企業では普通に使われている“顧客満足度”という言葉であるが、消費者はどのように感じているのであろうか。一般には「聞いたことがない」、「漢字の意味なら分かる」、「お客様サービスのこと?」などの返事が返ってくる。おそらく消費者にとっては、日常ほとんど使うことのない言葉であろう。

 企業では顧客満足度を一つの指標とし製品作りを行っているのだが、最終ユーザーである消費者がこの言葉をほとんど使わない、あるいは意識してないということはどういうことであろう。それは顧客満足測定の趣旨や企業の取り組みが伝わっていないということかもしれない。顧客満足度は「提供された“もの”(あるいはサービス)に対して受け手がどのような評価を下しているのか」を測る尺度であるが、正しいデータが得られているのか少し疑問を感じることがある。提供者側がアンケートなどのフォーム(設問)を提供し回収する型通りの測定で「顧客満足度が高い」と企業が評価し、高い企業満足度の結果になってはいないだろうか。本来は消費者が体験する実際の使用感や、操作上のトラブルなど些細な情報であっても抽出できる手法が望まれる。たとえば製品ハードに組み込まれたプログラムが、正しい操作とユーザーの操作を比較してレポートを出すことは可能であろう。製品やサービスによっては困難な場合もあるが、真のデータを抽出するための技術や解析の研究を怠らず、そして従来のとらえ方の検証を行なうことで、品質の良い安全な製品を提供することができる。その結果が顧客満足度を高めるということになるのである。

 消費者のCM好感度調査結果などを目にすることがあるが、顧客満足の背後にある企業・製品イメージのデータとしては理解できるが、その結果に満足しすぎてはいないだろうか。消費者のリスクは、提供者側の責任として追及されることを想定するのが企業リスクのとらえ方であり、消費者の不満足要因を最小にすることが製品安全の目標でもあろう。製品安全を企業内システムとして十分採り入れることが、顧客満足度を高める必要条件であり、かつ企業の体力を強化するものと考える。製品安全で考えるとき、顧客満足度が企業 に都合のいいデータとして使われることのないよう、評価・検証が求められる。

 ご承知のように“顧客”とは取引先や最終ユーザーであり、販売・流通者あるいは企業内における次工程の者である。一般消費者はこの顧客の中の最終ユーザーになるが、他の顧客との違いに注目してみたい。企業間で部品・製品などを調達する顧客企業は、最終ユーザーへの“もの”の提供者でもある。そのため最終ユーザーへの責任も課せられており、提供を受けた“もの”の品質を正しく評価する必要がある。したがって企業間での取引では、品質に関するクレームがなければ「顧客の要求品質に応えている」、「顧客が満足している」との評価ができる。しかし一般消費者が相手の場合は、クレームがないからといって「顧客が満足している」とはいえないのである。

 最近の新聞に書かれていたことであるが、アメリカの小売店では、消費者の返品に対して理由など問わずに応じているとのことである。消費者の気まぐれで購入したものであっても気に入らなければ返品自由で、極端な話だがメーカーの異なるテレビ2台を購入し、気に入った製品を残し他は返品するということもあるようである。もちろん企業も返品率を抑えるために販売店への報奨金制度を導入するなど対策をとってはいるものの、効果はあまりないようである。

 このような「消費者の気まぐれでも返品可能」という我が国では信じられないことでも、消費者への究極の(製品を含む)情報提供と考えてはどうだろうか。
この場合、消費者は基本的に製品に関するあらゆる情報を受ける権利があると考える。それらの情報により製品を選択し、使いやすさなど一般操作から安全に関わる特性も理解することになる。また取扱説明書の記載事項と実際の操作習得の難易度判断もできるであろう。子供のおもちゃを購入しても「危ないかな?」と気になったら返品でき、このことで危険リスクが軽減することも考えられる。
反対に「危険性などのデメリット情報をなるべく出さないで売る」という論理の裏には、「商品の安全性に自信がない」あるいは「顧客の不満足要素が見える」といった言葉が見え隠れする。また顧客満足を掲げながら、一方では消費者が主体となる社会を拒んでいるようにも見える。


 最近のように見た目には決定的な優位差のない製品群の中から製品を購入する場合、コスト対機能・デザインなどでそれなりに納得したはずであっても、実際に使用することで思わぬ不満が出てくるものである。“福袋”ではないのだが、それでも自分で見て、さわって購入したものだから「失敗だった」と自分を恥じ、しかし製品は使い続けることになる。もちろん欠陥品でなければメーカーにクレームがいくことはない。
企業の顧客満足測定がどのような手順で行われ、その結果をどのように評価したかを公表し、社会の検証を求めるのが真の顧客満足につながるものと考えるが、どうであろうか。企業は環境影響評価にはずいぶんと力を入れているようだが、自然環境だけでなく顧客も環境の一つであり、顧客への影響評価にも力を入れて欲しいものである。


 ところで顧客満足度の低い商品を取り扱うときに、危険のリスクはあるのだろうか。消費者が製品をぞんざいに扱ったりする場合は、安全に使用するための取扱説明書の“お願い”が通じないこともある。「乱暴な人」などと性格的な問題だけでとらえるのではなく、顧客満足度の及ぼす影響からも考えるべきであろう。また、製品事故を考えるときに、「誤った使い方はなかったか」と企業は考えるものであるが、顧客満足を求める製品安全の立場で考えると「誤った使い方ができることが製品の不具合である」となる。消費者にとって、顧客満足度の低い製品でしかも危険な目に遭わされるのでは「泣きっ面にハチ」である。このようなことにならないよう、企業には努力してもらいたい。

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