Web版

1994.5 No. 5  発行 1994年5月27日

発行人 中澤 滋  ASP研究所長野県松本市梓川梓3072-12 Tel. 0263-78-5002

[ ASP ホームページ ] [ ASP news ]


ハイテク解明カギ/自動操縦システム過信も
ハイテク航空機機長ら戸惑いも/7割「わからない機能ある」
「高調波」障害知らぬ間に
「高調波」発生をカット/業界が自主規制へ
家電製品「注意書き」をマークに統一/PL法にらみ業界、準備


4月の新聞記事より

■ハイテク解明カギ/自動操縦システム過信も

 名古屋空港で墜落、炎上事故を起こした「A300-600R」は、着陸時にもコンピューターが機体を自動操縦する機能を持つなど、ハイテク機として知られる。そのため、今回の事故でもエンジントラブルのほか、何らかの操縦ミスがあったのではとの見方もあり、ハイテク機器と、パイロットとの関係なども今後の事故原因調査で重要な要素となりそうだ。事故原因について、航空専門家の見方は「操縦士が着陸やり直し(着陸復行)を試みた際、機体が失速した」ということで一致している。その原因については、操縦ミスの可能性のほか、「エンジンに何らかのトラブルが発生したのではないか」(東大工学部の鈴木真二助教授)という見方もある。
 A300-600Rは各種の異常などについてアナログ計器ではなくデジタル式でブラウン管に計器表示を行うことができる。「ゴー・アラウンド・モード」の手順を踏んだ揚合、モニターに表示される「コマンド・バー」の上昇に合わせるように操縦桿(かん)を引き起こすとともに、スピードの回復も図る。このシステムはボーイング747-400など他のハイテク機とも同様という。 今回専門家が指摘するように機首の急激な上昇が起きるとエンジンに流入する空気が不足、出力低下や異常燃焼などの原因となる「コンプレッサー・ストール(圧縮機失速)」が発生する危険性が高まる。その場合も、排気温度の上昇がモニター表示で見て取れる。出火のような非常事態ではチャイムが鳴るという。
 今後フライトレコーダーなどの解析を進めていくうえで、これらの計器表示があったのかどうかが重要な問題ともなりそうだ。
 一方、同型機の操縦経験のあるパイロットらは操縦桿を制御するコンピューターに不具合があったという。このコンピューターは「FLC」と呼ばれ、高スピードでの無理な旋回などの操縦桿操作をさせないために、操縦桿を重くする。しかしこのコンピューターは低速時でも操縦桿を重くするという“難点”にもなっていた。今回の事故との関係は不明だが、こうした間題点には運輸省は改善通報に基づき、日本エアシステム(JAS)の同型機について、一週間ごとに機能検査を実施するよう指示を出している。

 次は今年の1月の記事ですが、関連するので紹介します。

■ハイテク航空機機長ら戸惑いも/7割「わからない機能ある」

 「ハイテク航空機は便利だけれど、使いこなすのはまだまだ大変」。現代技術の塊とも言われているハイテク航空機を自由に操っているように見える機長たちも、最新技術には戸惑いや疑問をもっていることが、民間研究団体が実施した日本ではじめての意識調査の中間報告で明らかになった。ただ、新しい技術の吸収には日本の機長たちは積極的で、米国の機長がマニュアルさえ理解できれば満足しがちといわれるのと対照的、と分析している。調査は「ハイテクの現状に即した訓練がもっと必要」と提言しているが、職場のコンピューター化に戸惑っている一般社会にも当てはまりそうだ。
 調査したのは、航空関係の学識経験者や航空会社の技術者、パイロットらで組織する民間研究機関・航空運航システム研究会(TFOS、会長・黒田勲早稲田大学人間科学部教授、約250人)の自動化研究部会(石橋明部会長)。
 コックピットに多くの計器の代わりにコンピューター画面が並んでいるハイテク機は、B747-400型機やA320型機など、日本でもすでに約140機が導入されている。操縦の自動化で入間のミスが防げるため安全と言われているが、92年1月、フランスのストラスブールでA320型機が山に激突した事故では、コンピューターへの入力ミスが原因ではないかとされるなど、ハイテク機ならではの事故も起きている。
 TFOSは昨夏、国内3社のハイテク機機長300人にアンケートを配った。36の質問に5段階評価で答えてもらう形式で、169人から回答を得た。
 「自動化はパイロットの疲労を減らしているか」には6割が「そう思う」と答え、7割が「自動着陸の性能は安全性を高めている」と答えるなど、ハイテク機の評価は高かった。「自社の航空機の中では、ハイテク機を操縦したい」と答えた人は7割いた。
 その一方で、7割が「理解していない機能がまだある」とし、「自動化がさらに進むのは楽しみだ」と答えた人は3割にとどまるなど、消化不良があることをうかがわせた。「確認作業が増えたので、全体の仕事量は減ってはいない」と思っている人は半数で、入力ミスをしないよう注意が必要なハイテク機の側面を示した。また「在来機よりハイテク機の方が自分が飛ばしていると感じる」と回答した人はわずか1割で、在来機と異なる操縦環境に違和感を覚えているパイロットも多かった。
 さらに、9割が「若いパイロットの方が新技術ののみ込みが早い」と思い、4割が[乗員同士の協力態勢が難しい」と感じているなど、コンピューター相手の個人作業が増えて、狭いコックピットの中でも人間関係が希薄になりかねない問題点も浮き彫りになった。

 重大事故の後でよく問題として浮かび上がるのに、人間工学的配慮の難しさがあります。常に新しい機械・環境が出現し十分なマン・マシーンインターフェイスのレビューが行われていないと言うことなのでしょうか。どうもそれ以前に私たちが人間の特性や行動について、どの程度個体差を含めて知り得ているのか整理する必要があるようです。個体差については教育・訓練で対応せざるを得ないかも知れません。訓練で覚え込ませるしか方法のない部分を科学的に特定し、レベル付けを行い、それに基づいた設計とソフト・訓練のプログラムが必要になると思います。
 一定のレベル以上で個体差をできるだけ少なくしても今回のような事故が起きるということは、航空機業界の安全設計の努力がまだまだ足りないと考えるべきでしょう。

■「高調波」障害知らぬ間に

 知らぬ間にコンデンサーや家電製品に“侵入”、いたずらを繰り返す「高調波」。その抑制対策に、家電メーカーなど業界が本格的に取り組むことになった。高調波の実態調査をしている社団法人「電気協同研究会」によると、1990年には70台の機器に異常を確認してる。しかし、製品の寿命を短くするなど、潜在的な被害はその数倍以上になるだろうという。3月24日夜、名古屋市科学館で起きた爆発事故は、「高調波」の恐ろしさをはっきり示していた。
 高調波が原因と見られる爆発事故があった名古屋市科学館は、1988年に1億3000万円で導入した受変電設備を大幅に取り替える必要に迫られた。合わせて自衛策として高調波センサーと電流の遮断機を組み込まねばならない。今月29日に一部開館するが、全面開館は7月にずれ込むという大きな被害を受けた。
 名古屋市内では、ハイテク機器を備えたオフィスビル街の中区内で最近、同じような事故やトラブルが相次いでいる。
 市消防局によると、科学館の事故から3日後に同区内の別のビルでも、コンデンサーに流れる電流を押さえるリアクトルが損傷したほか、92年10月にも同様な事故が発生している。さらに消防局がビルの管理会社から得た情報では、市科学館の事故が発生したほぼ同じ時間に2件、3月11日にも1件、いずれも同区内でリアクトルの異常加熱事故が起きていた。

■「高調波」発生をカット/業界が自主規制へ

 家電製品や事業所の大型コンデンサーに障害を起こすと問題になっている異常電流「高調波」について、電力・家電業界は、その発生を抑制するガイドラインを自主的に設けることにした。「高調波」の発生量を工場などの大型電気施設で50%、エアコン、蛍光灯などの家電製品で25%カットすることなどが主な内容だ。業界内の特別委員会で6月に正式決定するのを受けて、8月にも資源エネルギー庁が通達を流す。同庁によると高調波が原因とみられる振動や発熱、破損などのトラブルは年間100件にのぼる。名古屋市では先月、高調波によるとみられる爆発事故で1人がけがをしている。
 自主規制に乗り出すのは、電力、電機メーカーなどでつくる社団法人「日本電気協会」。資源エネルギー庁の依頼で、学識経験者らが1990年4月からガイドラインづくりの検討を重ねてきた。その結果、ガイドラインでは、正常な電流が高調波の影響でゆがむ割合を示す「ひずみ率」を一定基準以下に抑えるのを目標とすることにした。そのためには一般家庭で使われる家電製品や、サイリスタと呼ばれる半導体素子を使う工場などで、高調波の発生量をどの程度抑えればいいか試算し、目安として示すことにした。ひずみ率の目標値は7000ボルト以下の場合は5%以下、送電線など7000ボルトを超える特別高圧では3%以下とした。 この数値を超えると、「外国の事例などから機器が焦げるなど重大なトラブルが発生する恐れがある」(財団法人電力中央研究所)という。
 この目標値を達成するには、家電製品は高調波の発生量を従来より25%、工場などでは50%削減する必要があるとしている。具体的には、家電製品メーカーが機器ごとに回路を改良したり、フィルターをつけて高調波を吸収し、外部に流さないようにする。工場などは電気管理、保安担当者が工場全体で抑えることにしている。
 ガイドライン策定の中心になった正田英介・東大教授(電気工学)は、「高調波を25〜50%削減する目標値はかなり厳しい内容だが、達成すれば被害はほとんどなくなるだろう」と話している。
 家電などのメーカーで作る「日本電気工業界」からは「現行の製品にすぐに反映させるのは難しい。改良に合わせて対策がとれるよう実施までの猶予期間が欲しい」と言う要望が出ているという。

 電気製品・電子機器から発生する公害といわれているものに、空中を伝搬する不要・妨害電波と、電源コード・配電線を伝い、他の機器に入り込む高調波があります。今回問題になっている高調波は、電気的なオン・オフを頻繁に行うインバーター製品で特に多く発生し、高い周波数を使用するパソコン・電子レンジ・テレビ・オーディオ製品などからも発生します。電波やノイズとなって他の機器やシステムに影響を与える製品への対応は、欧米に比べ規制があまりないためになかなか進まないでいました。ドイツで規制されているノイズ耐性(機器のあらゆる端子にノイズを強制的に入力し、そのときの電源線ノイズ量を規制する)の考え方には議論があるかと思いますが、目に見えない環境の汚染は、空気中でも電源線でも、できるだけ無くしたいものです。

■家電製品「注意書き」をマークに統一/PL法にらみ業界、準備

 危険防止は、わかりやすい絵で―― 政府が製造物責任(PL)法案を決めたのを受けて、家電業界が統一規格の絵記号を導入する準備を進めている。これまで長文の注意書きを貼っていたが、消費者に読まれていないため視覚に訴えて事故を防ごう、という狙いだ。
 準備を進めているのは、家電メーカー32社と関連11団体で作る財団法人「家電製品協会」。 絵記号は全部で十数種類。「感電注意」なら落雷、「発火注意」だと燃え上がる炎、「触るな」なら手の絵に斜めの太線を重ねる、といった内容だ。欧米諸国で使われている国際規格が基本になっているが、「高温注意」が日本の地図の温泉のマークに似ているなど混乱の起きそうなものもあったため、一部は手直しした。短い説明文を付けるほか、危険度を「危険」「警告」「注意」の三段階に分けて表示する。
 絵記号は、線や文字を目立つように黒と黄色で表記する考えだ。絵記号を製品のどこに貼るかは、各メーカーが今後検討していくが、テレビの裏蓋や二層式洗濯機の脱水槽のふたなど、危険があるところに貼ることになりそうだ。
 家電製品協会はPL法の制定をにらみ、6年前に「PL研究委員会」を発足させ、絵記号については92年末から検討を重ねてきた。電機メーカー側は「正式に決まれば、業界全体で歩調を合わせて対応することになるだろう」(東芝)と話している。

 消費者にわかりやすい表記方法を採用するのは歓迎できることです。今までは、注意表示を製品上に記載しなければいけない約束事(法律あるいは業界慣行)のためだけに表示を行うことが多く、内容がわかりやすいかどうかはあまり真剣に考えていなかったのが実際のところです。PL法制定に向かっての業界対応ですが、ユーザーから見れば一歩前進ということで受けとめられるかもしれません。
 ところが問題もあるのです。 
 国際的な統一を求めているISO規格を基本にしているものの、「高温注意」は手直しをしてしまったというのです。
 ISO規格の「高温注意」マーク(右図)を温泉のマークに感じる人もいるでしょうが、家電製品の取説によく使われている「高温」のイラスト表現の“湯気”マークのどこがいけないと言うのでしょうか。委員の中の実力者?が「温泉のマークに似ているから、他の図にした方がよい」と、言いはったのでしょうか。とてもプロの発想とは思えません。
 標準的なものを業界で定めて世の中に出すからには、今後の社会に与える影響についての責任があるはずです。言葉で補足してでも、国際的な標準マークを日本の社会になじませることの方が大事であったはずです。異なる文化・言語を持つ国々の共通の利益のために統一すべき事項がISOで議論され決定したのですから、業界の取るべき行動も、もう少し視野を広くしなければならないはずです。わが国の後進性がここにもあるようです。
 最近リサイクルの動きが活発になり、アルミ缶とスチール(鉄)缶にリサイクルマークが表示されるようになりました。矢印で表現した「三角」マークがアルミを表し、同じような表現の「円」マークが鉄を表しています。
 これらのマークは、なぜかISO規格と全く逆になっていて、ISOでは「三角」マークが鉄を表し、「円」マークがアルミを表しています。
 こんな紛らわしいことをわざわざする必要もないので、きっと、最初に導入した企業が、あるいは業界の委員会で検討したときに、ISOを正しく参照せずに勘違いをしたのでしょう。国際規格の意味するところを深く考えていないため、このような不手際につながったのかも知れません。

終わりに

 ヒューマンエラーについて――最近のコントロールパネルはボタン(スイッチ)を押す方式でコントロールする製品が多くなっていますが、安全の面での配慮が必要になります。ある実験によると、この方式での通常時におけるエラーは、レバー式などの(操作結果体感型?)スイッチとの差は認められないものの、作業を急がせたとたんにエラーが多くなるという結果が出ています。
 警告表示について――製品に表示すべき警告ラベルが、貼る場所がないためにユーザの目に届きにくい場所に貼られることが往々にしてあります。警告は、危険が内在する場所・危険な操作へのアクセスルートに無ければその役目が果たせないので、設計段階から場所を確保し、どうしても場所がないときには貼るための部品(アングルなど)を追加してでも対応する必要があります。法的には製品上に警告ラベルが要求されているだけであっても、使用者から「気がつかなかった」根拠を主張されたときのことを考慮しないと、PL対応とはいえないでしょう。


Google
  Web ASP