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1994.1 No.1  発行 1994年1月27日

発行人 中澤 滋 ASP研究所 長野県松本市梓川梓3072-12

Tel/Fax 0263-78-5002

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はじめに
水俣病訴訟、京都判決で国と熊本県の行政責任を一部認める
新薬「ソリブジン」併用により死亡事故多発
日本ラインで遊覧船転覆
情報公開法制定へ審議会
マラリア薬、副作用問題
ファイルについて‥‥
なくなっても困らない書類はファイルしません
それではルールを作りましょう


■はじめに

 今年の1月1日に「製品安全のプロ」として、より幅広い活動ができるようASP研究所を設立いたしました。名称については、Assuarance of Safety Productの頭文字を使用してASP研究所としました。
 本研究所の活動目的は、「安全で品質の良い製品が社会に供給されることにより、PLによる社会的デメリットが生じないよう努力する」であります。
 産業は生産者と購入者により成り立っていますので、PL問題は双方の利益につながるよう皆で努力をし、最善の解決法あるいは対策を見つける必要があります。
 企業は安全を重視した製品の開発・製造に努力し、消費者啓蒙のメッセージを送らなくてはならないでしょう。消費者はクレームを主張するだけではなく、行うべきことを行い、「自分に過失がないこと」を自ら立証する態度が必要だと思います。つまり責任ある消費者が望まれる訳です。
 日本でも来年には日本型PL法が施行される予定です。行政・企業・消費者がそれぞれの責任を自覚し、お互いの未来に対し有用な意見交換を行うことができれば、この法律に対して過剰反応することもないのでしょう。
 このASPニュースは毎月発行し、皆様方に安全や品質システムに関わるニュースやコメントをタイムリーに届けるつもりです。
ASP研究所は消費者の目を持った安全のプロとして、皆様のお手伝いをさせていただく所存です。どうぞよろしくお願いいたします。

11月の注目記事より

■水俣病訴訟、京都判決で国と熊本県の行政責任を一部認める

 環境庁は「国が不作為による行政責任を自ら認めると、事前に責任を回避しようとして何にでも積極的に介入することになり、収拾がつかない」という。スモン訴訟の場合、不作為による行政責任を判決で指摘され、最後は和解した。同庁は「地裁レベルで九連敗したからだ」という。水俣病の場合、今回の判決で国の二勝三敗。「スモンのように判決の流れが定着したとは、とてもいえない」と環境庁はいう。

 京都判決で国側が敗訴した理由の一つに連立政権の要因があるように思われます。それにしても「国の二勝三敗」では「判決の流れが定着したとは、とてもいえない」ということですが‥‥。
 「国が行政責任を認めないことが社会の混乱を防いでいる」というのが環境庁の考え方だというのです。
 この考え方が正しいかどうかは別として、安全は社会的な「きまり」の中で確立されていくものなので、このような国の安全に対する考え方・態度は重要視していかなければなりません。
 PL法が施行され、第三者機関が問題収拾のための報告を出しても、国が何も行わないようでは困るからです。どのように国が動くか、今の裁判上の判断を参考にしながら考え、また行政がどの程度関与するかを見ていかなければなりません。

■新薬「ソリブジン」併用により死亡事故多発

 薬の併用に関わる問題の安全確保は大変に難しいのですが、情報システムの活用が大事な手段になります。
 製薬会社・病院・医者・患者とそれら全体に関わる国の問題、あるいは市町村レベルの行政の関係の中で適切な情報を流せられるシステムを整備しなければこのような事故は防ぐことはできないでしょう。
 薬を開発し販売するビジネスは疾病から患者を救い出すのが大前提であります。 「リスク対有用性」の考えの中で、副作用の強い薬もその効用により社会的に認められています。
 しかし今回の事故で死にいたらしめる副作用の取り扱いについて、あまりにもずさんな実態が暴露されたといえるでしょう。


 日本商事の新薬「ソリブジン」の副作用については、「使用上の注意」の欄に抗がん剤との併用はさけるよう記述されていて、より注意を引かせる「警告」とはなっていなかった。

 これでは重大な副作用との扱いではなく、「併用すると副作用が起こりますよ」と言っているだけで、「絶対に併用してはならない」との強い命令が読みとれません。また副作用の結果、どのようになるかも具体的に示されていません。
 このことは安全に関わる重大な情報が企業の中にだけあり、医療のプロであるべき医者のところまで届いていないことになります。これでは信頼のおける治療はとうてい期待されないでしょう。


 次の日には日本商事の内部文書に、「併用で死亡する恐れがある」との記述が見つかった。

 事故が起きれば必ず企業の内部文書が公にされるものなので、どのような表現で書かれているかで致命的な結果をもたらします。外部に出てしまうことを配慮した文書内容とし、その表現方法は用字・用語の標準にしたがった記述方法をとる必要があります。
 いずれにしても今回の事件はさまざまな教訓を残しましたが、根底にある「デメリット表示を出したくない」という営業的感覚に対して、「営業がなんと言おうが、会社のリスクであればデメリット表示を行う」といえるシステムの存在が大事だと考えます。
 また厚生省のチェックシステムが甘い現状にあっては、行政に頼るだけの安全意識ではダメであるといえるでしょう。「実際にリスクを負わされるのは自分の会社である」と言うことを再認識すべきでしょう。

■日本ラインで遊覧船転覆

 スリルを求める観光ビジネスでの安全管理は本当に大丈夫なのでしょうか、改めて考えてみたいと思います。


 28日に起きた「日本ライン観光」の遊覧船転覆事故では調査の結果、船員見習いが船を操っていたことが判明した。また救命備品は規則により救命胴衣か救命クッションのうちいずれかが必要であり、実際救命クッションが装備されていた。しかしながら「救命備品に対する説明はいっさいされていない」という乗客の話がある。
 会社の話では「見習いが船外機操作をすることはあってはならない」としており救命クッションについては「乗船時に使い方を説明しているはず」とも言っている。

 過去の教訓も生かされずに同じような事故が起きてから初めて会社側の不手際が明らかになることはよくありますが、人命軽視としか言いようがないことです。現場のベテラン船員に任せっきりでは安全管理を行っているとはいえず、「〜のはずだ」などの言葉を使って言い訳するのがせいぜいのところです。きちんとした「運行規定」などがあり、日々のチェックシートの結果が保存されており、また実施されていることをシステムとして立証できるような文書があるか、いわゆるISO9000の考え方で検証することが大事でしょう。
 安全技術的には救命クッションを座布団として使うことの問題点があります。説明がないときに「座布団が自分の命を守る救命備品」とは乗客の誰も思わないでしょう。乗客の認識も薄く、この会社でも「過去、救命胴衣を使ったところ乗客の評判が悪いのでやめた」と言ってます。
 欧米では当たり前の救命胴衣の装着ですが、日本では受け入れられないという乗客の安全に関する無防備な態度はよく目につきます。日本の教育が悪いといって人や国のせいにするのではなく、消費者に対する啓蒙の立ち後れととらえて、必要なアクションを考えてみるべきでしょう。
 朝日新聞の論説では、「まさかの油断が事故を招いた」として取り上げていましたが、乗客の安全認識については一言もふれていませんでした。乗客の中には「あれ、救命具はないの」と聞く人はいなかったようなので、「気をつけましょう」の記述があっても良かったと思います。
 「安全の確保は企業が考えるもので責任も企業にある」と考えるのは、製品が複雑で危険の存在が一般の消費者に分かりづらいときに一般的なことと言えます。今回の事故のようなスリルを求める裏には必ず危険が存在する場合は、マスメディアが我々消費者に問題提起するための記事を書くべきでしょう。責任の所在よりも自らの命を守る賢明な消費者でありたいと思うのは私だけでしょうか。

12月の注目記事より

■情報公開法制定へ審議会

 政府は国の行政情報を原則的に公開することを定める情報公開法の制定に向け、有識者による審議会を来春にも設置し、法案内容の具体的検討に入ることを決めた。

 消費問題で一番問題視されている情報公開は、製品の安全に関わること以外での情報公開の流れがでてきています。
 PL法の制定により、第三者機関の情報収集が行われると、そこからの情報が公開され利用されることになるでしょう。
ISO9000を導入するときでも、重要な記録についての文書管理や文書の作成がウィークポイントになっています。
 今後のPL予防を考えるとき、企業内の文書が公開されることを念頭に置いての対応が必要となるでしょう。


■マラリア薬、副作用問題

 マラリアの治療薬「ファンシダール」を予防用に処方されて服用した人が重い副作用を起こした問題で、厚生省はファンシダールを輸入販売している日本ロシュに対し、医薬品添付書を改訂するよう行政指導をした。
 当初、厚生省薬務局は「医療現場での問題」としていたが、予防内服の危険性が高いとの外国文献報告もあることから、添付書の改訂を指導した。
 行政側や薬品会社も、医薬品添付書の説明が不十分だったことを、事実上認める形となった。

 安全に関する情報収集は国内外を問わず行わなければならないが、ここで記載されている外国文献報告とはファンシダールの開発製造に当たったスイスの製薬会社「エフ・ホフマン・ラ・ロシュ社」がまとめた論文です。ということは当然日本ロシュはこのことは知っていたはず注1)であり、故意に情報を出さなかったと見なされるでしょう。また、行政側の対応にも不十分な面が有りますが企業の責任は免れないでしょう。
 注1) 国民生活審議会答申のPL法では「開発危険の抗弁」を認めていますが、これは「開発当時の世界最高の技術水準」のことをいい、世界中の情報を収集して初めて企業の抗弁が成り立つことになります。

◆ファイルについて‥‥

 机の上に一枚の書類があるだけではファイルは必要ないかもしれません。しかし書類が二枚になった場合からファイリングの概念が必要になります。
 書類が重なっている場合、書類が並んでいる場合、どちらから読むべきなのか、日付の違いは、何のために、誰が書いたのか、誰に宛ててのものか‥‥等。
 自分以外の人がその情報を必要とすることがあるのかどうか、そのときはすぐに探し出せるかどうか、そして風で飛ばないよう、なくならないように。

■なくなっても困らない書類はファイルしません。

 個人の引き出しの中のファイリングはあまり気にしないことが多いようです。これは、基本的に他人が必要としないことと、ファイル管理者がいて、しかもコンピュータ(頭)で管理しているからです。
 しかし個人の引き出しの中と同じように共有ファイルの中にも不要なものが隠れているものです。
 書かれていることの当事者でなければ誰も整理しようとはしないでしょうし、勝手に捨てるのは抵抗があるものです。責任をとらなくてはならなくなる場合がありますし‥‥。

■それではルールを作りましょう。

 ルールに従えば誰が作業しても間違いが起こらないでしょう。
 ISO9000シリーズの認証を取得しても安心はできません。書類はどんどん増えていくからです。また書類の電子化を行うことで、新たなルールを作らなくてはならないかもしれません。書類の管理にはいつも新しいことが出てきてしまいます。
 完璧なシステムと思われても時間が徐々に壊していき、ヒューマンエラーがシステムの欠陥を暴き出すでしょう。
 ルールはあくまでも限定された条件の中で機能するように考えられていますので、明日になったら変更しなければならないことだってあるでしょう。
 また、ルールを守るよう指導しなければならないというときは、ルールそのものや人とシステムの問題が隠れているのかもしれません。
 このことは消費者のクレームの中に隠れている重要な製品情報と同じようなものです。どちらもユーザインターフェイスのできに関わることだからです。

終わりに

 第一号は事故の記事などを多く入れてしまいましたので、読むのに疲れたかもしれません。
 いろいろなことを幅広く皆様に紹介できればと思っていますが、何せ人間の作るものです。なにかお気づきの点がございましたら是非ご連絡くださるようお願いいたします。


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