“使いやすい”取扱説明書の企画・設計手法 |
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ASP研究所 中澤 滋 |
前述したようにユーザーにとっては取扱説明書はできれば無い方が良く、製品を購入した後(企業の宣伝のように)、すぐに製品機能を享受したいものである。個人差はあるものの、製品を触り分かりそうなところは自己流でも操作したい欲求に駆られるものである。しかし危険・警告などの文字は気になるので、読もうとする努力はする。
この努力の程度であるが、自分の知らない情報や重大事故の可能性、あるいは購入したばかりの製品の損傷については積極的に読もうとする。それでも「製品に水をかけないで下さい」や、「落とすと足をけがすることがあります」などの文言が列挙された注意書きの別紙(別冊)には読む気力が続かない。もちろん製品の持ち方によっては非常にバランスが悪く、落とす懸念がある製品では先ほどの注意は理解できるが、持ち運びのためのハンドルが付いている製品では不要な注意文である。
さて一部での指摘があるものの、なかなか改善されない注意の絵表示の問題であるが、“○枠”に斜め線のマーク(標識枠)だけのものが氾濫し、何をいっているのか文字を読まないことにはわからないものが、まだ多く見られる。そのシンボル表記の箇所が多いため、アイキャッチとしての注目度も低下し、しかも悪いことには注意を促がす言葉がユーザーにとっては当たり前のことが多すぎる。このようなケースでは、シンボルの記載箇所を飛ばして読むという行動に出るユーザーが増えるのも自然のことであろう。(P社製留守番電話の例)
<図省略>本来、好奇心または偶然に起こす誤った操作で製品が壊れてしまうものは、一般消費者向け製品としては完成度の低い製品である。それは製品上で対策をとるべきで、取扱説明書での注意書きに頼るのはユーザーに負担を強いるものである。したがって取扱説明書の注意書きを必要以上に増やし、ユーザーに注意義務を科すことを強要するような企業の対応は、ユーザー不在として見られてしかるべきであろう。取扱説明書を読んで製品の操作を学習することはできるだけ避けるのが望ましいが、一部のコンピューター関連製品に至っては記載されている文言の特殊性から、取扱説明書そのものの学習が強要される。
取扱説明書の目的は製品の使い方を覚えてもらうことで、注意書きを読んでもらうことではなく、ましてや取扱説明書を理解するために学習することでもない。街の書店に行くとソフトウェアの解説本のなんと多いことか。ソフトウェアを提供する企業は自身の取扱説明書が読まれない、使われないのが既に分かっているようであるから、解説本の出版社と提携し、その解説本を付けて売るなどする方がよほどユーザーのためになる。
さて通産省製品評価技術センターの事故情報収集結果を次に示す。
〜事故通知件数及び製品事故に占める製品欠陥、誤使用・不注意件数の推移〜
〜製品事故に占める製品欠陥、誤使用・不注意の比率(%)の推移〜
〜主な製品分類別の製品欠陥、誤使用・不注意の比率(%)の推移〜
【家電製品】
【燃焼器具】
【乗物・乗物用品】
ここで注目すべきは製品欠陥よりも誤使用・不注意の比率が高いことであろう。これは誤使用・不注意を発生させないとする企業の取扱説明書の効果があまりない、ということでもある。考えてみて欲しい。誤使用・不注意にしろユーザー被害が起きるのは、製品あるいは取扱説明書の説明不足ではないかと。「取扱説明書を読まないユーザーが悪い」との企業側の抗弁も聞かれるが、製品の危険を知り尽くしたプロである企業の責任は重い。また、そのような感覚を持つことが現在のCS的企業のあり方でもあろう。
(1)安全上の注意
(a)電気保温ポット
注意書きの最初に「改造はしないこと また、修理技術者以外の人は、分解したり修理をしないこと」の文章は、製品を初めて使い初めて取扱説明書を読もうとする人にとっては、かなり異質なものである。製品の使い方さえ満足にできないユーザーが「どうして使うのかな?」と思ってみる取扱説明書の最初に「分解や改造する」という意識がどれほどあるというのか。普通に使用する上での注意すべきことをまず記述するのが望ましい。
(b)芝カッター
<省略>
(c)充電インパクトドライバー<省略>
(d)保温釜
<省略>
(e)ステレオパワーアンプ
<省略>
(f)プリンタ
<省略>
(2)表記上の問題
<省略>
(3)事例
(a)T社製電気保温ポット<省略>