取扱説明書制作講座 |
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ASP研究所 中澤 滋 |
・製品型式、製品名、バージョン、仕向け地、用途
・社名ロゴ、メーカー名、販売代理店名等
・取扱説明書管理番号、版数
・JISマーク等の認証取得規格表示
・取扱説明書の扱い、役目の説明
・検索しやすくするための目次、索引
・取扱説明書そのものの説明
(役割、構成について、保管についてなど)
・本文中に出てくる統一された記号、マークなどの説明
・誤った取り扱いにより、火災、感電、けがなどの恐れがあることの説明
・作業者、取扱者の資格、服装などの注意
・取り扱い手順の説明
・操作の途中で行き詰まったときのフォロー
・一般的でない単語、記号などの説明
・操作を忘れたときのリファレンス
・日常の手入れ、点検、保管
・移動、輸送について
・トラブル時の処置方法
・仕様、特別の機能、機構、回路、従来品との比較
・検査記録
・環境に関する事項
(廃棄時の処置、老巧化による影響、リサイクル可能な消耗品などについての情報)
・法律で定められていること
(安全規格、不要輻射、独禁法、景表法、薬事法、消費生活製品安全法など)
・業界で定められていること
(表示に関する公正競争規約、業界自主規制、表示に関するガイドラインなど)
・登録商標名、商標権保持会社名の一覧、著作権表示
・取扱説明書、リファレンスマニュアル、設置ガイド、基本操作ガイド、パーツリスト
・年令
・教育
・対象国、言語、文化
・操作、運転資格
・子供、老人、弱視者や障害者への配慮
◇特定の人を対象とする場合、一般の人が扱うことがないか販売形態など含めて十分に調査する。
・ページ数
・分冊構成
・用紙(サイズ、紙質)
・綴じ、折り
・バインダー式(追加、差替情報の有無)
・表紙
・ページレイアウト
・写真、イラスト条件
・版下、色
・製品上
・パッケージ外装
・その他のメディア(ビデオ、CD-ROM、オンライン説明など)
製品を購入したユーザーの行動を時系列的に整理し、取扱説明書の構成要素をストーリーとして検証する。以下、いくつか例をあげてみる。
・どのように開けたらいいのか梱包の外観を見る。
・日常よく目にする梱包用テープなどであれば、それを取り外す。(テープをはがしたり、カッターで切ったりする。)
・箱に解梱方法の説明があるときはそれを読む。
・梱包が傷んでいる場合、中身が大丈夫か気にする。
・梱包状態を見ただけで開け方が分からないときは、必要な情報(方法や注意)を梱包外装に記載する。
・梱包を開けるときに意図しない方法(箱を逆さまにして開けるなど)を想定し、製品の損傷または作業者の危険につながるか考える。必要であれば注意書を記載する。
・テープをはがしたとき、梱包箱の外装面の大事な表示がはがれないよう注意する。
・梱包箱に取り扱い説明を記載するときは、梱包の素材・大きさ・形状にあった文字、イラスト、色などを考える。
・製品や梱包材料を箱からすべて取り出す。
・製品が重たい場合は、両手を箱の中に入れて取り出す。取り出すときに梱包材(パッキン)などを壊すこともある。
・取り出すのは上から、見えるもの(パッキン、付属品)、小さいもの(軽いもの)、大きいもの(重いもの)の順。(個人差はある。)
・製品を覆っているビニール袋などがあるときはそれを取り去る。
・内容物を確認し、使う物(製品・付属品)と使わない物(梱包材)とを分ける。(ユーザーはここで取扱説明書が付属しているのが分かる。)
・使わない梱包材を離れたところに置く、あるいは捨てる。
・製品と付属品がすべて揃っているか(この段階で取扱説明書の当該部分を読む)、また壊れているものはないか確認する。
・製品に輸送用テープなどが貼ってあるときはそれをはがす。
・輸送時の固定用パッキンやねじなどがあるときは、それを外す。
・付属品は何に使うものか、その形状などから経験的に判断しようとする。(解梱しながら、付属品を取り付けたりする場合もある。)
・製品のセットアップや操作によっては危険が予見される場合、この段階で取扱説明書を読むよう促す必要がある。
・場合によっては製品上に直接、あるいは印刷したシートや包装用ビニールなどの上に、取扱説明書を読むよう注意表示する。
・ユーザーが取扱説明書の外観を見て、あるいは中を開いたときに、安全に関わる大事な記述があり、それをユーザーが読まなくてはならないことを理解させる。
・取扱説明書が分冊で構成されている場合、それぞれの説明書はその役割を明確にし、直感的に分かる名称でユーザーの次の行動に対処する。
・取扱説明書には付属品(取扱説明書、保証書を含む)すべてが記載され、チェックリストとして機能すること。
・付属品の説明(名称と用途、特別な用途のみに使用される付属品はその情報)を行う。
・輸送時の固定用パッキンやねじは、それらがついていることが容易に分かるようにする。(使用前に取り外すことを記載したタブなどを取り付ける。)
・確認のため、取扱説明書にはパッキンやねじの位置が分かるようにし、取り外し方を記載する。修理などで輸送するときに必要なものはそのことを記述し、捨てないよう注意する。
・梱包材や箱の保管を強要する場合(移動、輸送のため)の説明。
・梱包材の安全な廃棄について。(回収のルートがある場合はその説明。)
・なんとなく分かりそうな場合は、取扱説明書を読まないでとりあえずセットアップする。
・据え付け、組み立てなどに使用する付属品といっしょに取り扱いの説明書きがあるときは、それを読み作業する。(このとき取扱説明書は読まない。)
・分からないところは取扱説明書を参考にして作業する。
・セットアップしたら確認のため、取扱説明書を見る。
・製品を機能させるための電源(エネルギー源)を投入して、製品が動くかの確認をする。
・取扱説明書を読まないと重大な責任をユーザーが引き受けることの説明(取扱説明書の表紙、取扱説明書用ビニル袋や注意シートなど)が必要。
・手順をもれなくストーリー化して、間違いなくセットアップできるようにする。(機械によっては電源スイッチが入っていないことを確認してから、電源プラグをコンセントに差し込まなければならない。)
・付属品についている説明書きは、取扱説明書本体と同等の品質を持たねばならない。中途半端なものであれば取扱説明書のみで対応する。(付属品の袋などには、「組み立てについては取扱説明書を読むこと」を明記する。)
・製品のセットアップでは製品固有の作業ばかりでなく一般的なことも多いので、ユーザーによっては「分かりきったこと」と思うこともある。したがって説明は読むのが苦痛でないよう、簡潔にポイントを押えること。
・設置場所・環境について、設置に必要な道具の説明、組み立て・固定方法、安全上の注意などを記載する。
・製品によっては設置マニュアルとして別の冊子とすることも考える。ただし、取扱説明書を頭から読んでいく場合のストーリーの流れが分冊にすることで中断する。このときは分冊になった説明書の読み方(読む順序、個々の内容・重要性)を知らせる必要がある。
ユーザーの行動を考え、かつスムースに取り扱いの習得を誘導するような章だてとする。最近の電子メディアによる取り扱い説明でも、ストーリー重視のシナリオが作れるかでその評価が決まる。したがって章だては取扱説明書制作の最も重要なポイントである。
・製品購入時の製品に関する情報(PI:プロダクトインフォメーション)を提供する。
・製品操作のためのガイドやイメージを説明する。
・輸送手段の説明が必要な製品の場合は、輸送についての説明や注意情報を提供する。
・大きな機械などの荷作り梱包の取り外しをユーザー側で行うときは、その作業についての説明をし、安全な作業を行ってもらう。
・手にした梱包状態の確認を行い、製品の状態と梱包や輸送形態との関係を確認してもらう。
・開封方法と解梱の説明をし、製品を壊さないように、あるいはユーザーがけがをしないようにしてもらう。
・工具が必要な場合はその種類(一般に入手しづらいもの、地域差により入手の困難なものは製品といっしょに供給する)を説明し、無理な開封を行わないようにしてもらう。
・製品や付属品すべてを取り出してもらい、過不足がないか確認してもらう。
・製品や付属品に外観上の異常があるときは、製品の動作が保証されなく、また安全上の問題があることを知ってもらう。問い合わせ先の情報から、販売店などに連絡をしてもらう。
・梱包材の処理をしてもらう。
・製品の据え付け、付属品の取り付けを行ってもらう。
・他の機器やシステムとの接続を行ってもらう。
・設置に必要な準備や条件の確認が必要な場合は、作業者、設置場所・環境、エネルギー源を確認してもらう。
・製品を操作するために必要な(取扱説明書の本文で出てくる)各部の名称と機能を理解してもらう。必要であれば、理解を助けるための構造や動作説明を行う。
・製品が正常に動作するか確認をしてもらい、使用前の準備として必要な付属品・材料の準備を行ってもらう。
・購買の動機となった機能を確認してもらう。
・単機能操作を個々に行ってもらい、連続操作まで順に理解してもらう。
・単一目的別に操作を理解してもらい、次に複合操作を理解してもらう。
・製品機能を十分発揮するための操作を習得してもらう。
・新たな疑問が出てくるので、取扱説明書にしたがって解決してもらう。
9. 特殊な操作、高度な使い方を習得するための操作
・製品機能を100%使いきってもらうための操作を習得してもらう。
・他のシステムを共有したり、オプションを使用して複雑な処理を行ってもらう。
・難しい操作であっても用語は他の本文と同じレベルとする。
・基本仕様、技術情報を説明し、製品性能の根拠を理解してもらう。
・製品を使わないときの方法・注意や保管するときの条件などを説明し、次に使用するときにすぐ使ってもらう。
・ユーザーメインテナンスの範囲として、日常の手入れ、消耗品の交換等について説明し、常に製品の動作環境を正常に保ってもらう。(メインテナンスフリーの製品でないため、ユーザーにお願いしている。)
・安全のための緊急待避について説明し、次にトラブルの原因を特定してもらう。原因によっては復帰できるのでその方法をとってもらう。また復帰できないときの行うべきことを説明し、製品やユーザーの被害を最小限にとどめてもらう。(トラブルはユーザーにとっては時間、労力、その他の負担を強いるものなので、文章は十分検討すること。)
・消耗品(バッテリー、トナーなど)と製品の廃棄・回収時の安全や環境面について説明し、ユーザーにしたがってもらう。
●情報伝達方法
・一般には視覚、聴覚に訴えるものであり、視覚的に情報を伝達するのが最も多い。ビデオによる取り扱い説明は以前からあるが、最近ではCD-ROMなどの電子メディアによるものが現れ、パソコンなどではオンラインヘルプの形を取るようになってきた。
・販売店用ビデオ
・航空機の整備マニュアル(CD-ROM)
・銀行などのATM
・オンスクリーン調整(モニター、テレビ)
●ページ数と分冊
・複数の取扱説明書が必要な場合、それぞれの説明書の内容と役割を示す必要がある。ユーザーの目的を直感的に理解できるよう、表紙に印刷またはラベルで対応する。また、全部の取扱説明書に対する簡単な解説を1枚のシートで行なうなどして、全体の関係が一目で分かるようにし、ユーザーの知りたい情報にすぐたどり着くようにする。
・現在多くの製品で用意されているユーザーマニュアルとリファレンスマニュアルの守備範囲の違いなどは、非常に分かりづらい。
・分冊であっても相互参照するところは、参照すべきマニュアルとページ(章・節)を正確に記載する必要がある。
●用字・用語標準
・かなづかい、送りがな
・漢字
・かな書きにする語
・固有名詞(製品名、部分名、部品名、機能名、銘板名、製品上の機能名称など)
・外来語・外国語表記、外国の地名・人名表記
・数字の書きかた(縦書き、横書きの場合)
●編集・校正基準
・ユーザーレベルの確認(専門用語の抽出と使用の可否、漢字/かなの比率)
・製品別使用基準
・句読点、中黒(中丸、中点)、かぎ・括弧
・数字・計量単位の書きかた
・略語と記号(シンボル)
・欧文の大文字使用の原則
●箇条書きと表の選定
●見出し
●レイアウト
●スタイル
●テクニカルイラスト
●一般イラスト
●写真
●チャート
●図面
●図記号の使用基準
●表現方法
●ページレイアウト
・段組み
・ヘッダー、フッター
・目次
・扉
・表紙
●見出し
・階層
・文字種(フォント)、サイズ
・段落スタイル
●本文
・階層
・フォント、サイズ
・日本語と欧文フォント
・段落スタイル
・字詰め(トラッキング、カーニング)
●ビジュアル表現
・警告・注意シンボル
・キャッチ
・色、アミ
●構成
・レイアウトの統一性
・章の書き出しのページ
・ページの完結のしかた(ストーリー単位)
・見出しの検索性
●文章
・段落の区切り
・文章の長さ
・法律、業界で禁止されている表現
・あいまいな表現
●構成
・デザイン、レイアウトの統一
・本文と図の位置関係
●品位
・正確さ
・誤解のない表現
・大きさが適当か
・余分な情報が入っているか
・つぶれ、かすれ
●文字
・図版に使用されている文字の統一性
・本文用語との統一性
取扱説明書の基本設計が明確になると、今度は製品固有の情報をユーザーに伝えるための取材が始まる。社内で制作を行う場合、社外に制作依頼する場合があるが、いずれの場合でも製品の設計技術者が提供する資料や説明をもとに原稿ができあがる。ここでは技術者の論理とユーザー行動のギャップを理解することで、ユーザーの立場に立った取扱説明書を考えてみたい。
■技術者が陥りやすい論理
・設計要素の中で大事な“ユーザー行動”がなかなか理解されない理由の1つとして、社内で収集する情報のほとんどが企業の人の提供によることがあげられる。設計者本人は当然ながら、営業情報であっても販売店や代理店のいわゆるプロの人のフィルターを通った情報である。
・論理的に物事を理解し構造的に組み立てていく設計者は、仮定を立証するケースを数多く体験している。したがって「AがこうなるとBはこうなる」、「きっとCもそうであろう」、「ああやっぱりCもそうだった」と経験が豊富になるにつれ、だんだん排他的に情報を管理するようになる。その結果「こうだといいのだが」、「こうあるべきだ」が「このはずだ」、「これに決まっている」「こんなことは当然分かるだろう」といった方向に意識することなくいってしまう。
・また設計上避けて通れないコスト、スペースなどの多くの制約条件があるため、「ここはこれ以外の方法はない」「この変更は今からでは無理だ」といった受け身の応対もせざるをえない。このため、「こうであって欲しい」という考えを持ちやすい。
■取扱説明書は設計者が作る必要はないと考えているが‥‥
・設計者は限られた期間の間に業務を完了しなければならないが、外乱が多すぎる。営業部門からデザイン・スペックの変更、資材調達部門からは材料・部品の変更、生産技術部門からは作業工程上の相談、製造部門・品質保証部門からは不良対策など、設計担当者の手を煩わすことが多すぎる。
・設計者は「製品と取扱説明書は別物であり、取扱説明書制作に必要な資料を提供し、説明が終わればあとはあまり関わりたくない」と思っている。ところが製品上に印刷したり、ラベルで表示するものは設計者が部品としてとらえるため、図面を起こして手配するのである。
・オンラインヘルプなどの説明は、ソフトとして製品に組み込んであり、またLCDディスプレーの表示なども取り扱い説明の主要な部分を占めている。これらの設計は設計担当者の領分であるととらえられている。
・上記2点より設計者はすでに取扱説明書の本文を制作しているのである。しかし製品上の取り扱い説明と、印刷された取扱説明書の内容が異なるレベルであることが多い。(取り扱い説明のコーディネーターが製品、取扱説明書両方を監修し、レベルを統一する必要がある。
■取扱説明書の文章が分かりづらい理由
・部品のカタログ、仕様書の用語がいつのまにか設計者の標準的な言葉となる。
・専門用語が社内的にも認知されている場合が多い。
・日常読む専門書、学会雑誌、業界の情報など、目にする文書は一般ユーザーを対象としてないため、非常に専門的な用語を使いたがる傾向にある。これは専門用語のほうが説明が簡単でありまた文章も短くなるためである。実際、分かりやすく書こうとすると時間がかかってしまう。
・技術者にライティングの教育を行っていない。
■取扱説明書制作者の論理
・必要な情報さえ記載すれば取扱説明書は完成し、責任を果たすことになる。(担当者レベルの責任がメーカーの責任にすり変わっている。出荷の権限の重大さを製品と同じようには考えていない。)
・取扱説明書に説明があるのにそれを読まないユーザーが悪い。
・取扱説明書の内容が間違っていなければ可とする。(制作の制約の中で「ページ数を増やしたくない」、「作業のやり直しになり時間がない」といったことで参照ページを増やしたりする。)
・製品の設計変更による取扱説明書の修正が納期(初回生産ロット)に間に合わない。
・取扱説明書の記載ミスをすべて見つけることは、校正をいくら行っても難しいし、また時間もない。(製品みたいに部品が違うと動作不良を起こすというものではないが、校正(試験・検査)を繰り返すことで不良ゼロは可能である。)
■技術者の思い込み
・「まさかこんなことはしないだろう」、「どこにでもあるものだから知っているだろう」、「他のメーカーも同じだからいいだろう」
・「端子にはちゃんとつないでくれるだろう」
(スピーカーコードをつなごうとして、芯線の一部が製品内部に入ってしまうかもしれないし、入力、出力コードを逆につないでしまうこともある。)
・「この隙間には物をいれる人はいないだろう」
(幼児・子供は隙間があれば何かを入れてみたくなるものである。また前かがみになったらネックレスが隙間から入ったということもある。)
・「このつまみやスイッチは丁度いい大きさのはずだ」
(子供や外人のことを考えていないかもしれない。)
・「この操作パネルの高さはこれで丁度いい」
(背の高い人は上部のキャビネットに頭をぶつけるかもしれない。)
・「コントラストを得るため、赤と緑を使った表示は補色の関係で目立つのでよい」
(弱視の人には一色にみえる。)
■ユーザーの心理
・製品を購入したらまず購入動機である機能を試してみたい。
・取扱説明書を読まなくても動かしてみたい。(早く製品を使用したい。)
・取扱説明書は分からないときに見るものである。(分かっていることをわざわざ見る必要はない。)
・製品上に直接表示されているもの(ボタン、つまみ、ディスプレーなどに表示された情報)はよく見る。
・何をいっているのか分からない(2度3度読んでみても分からない)取扱説明書は読む気になれない。(製品を使用したいのであって、取扱説明書は勉強したくない。)
・ちょっと考えないと分からないカタカナ用語が多く読みづらい。
・面倒なことはしたくない。(停電で設定をやり直す製品は、設定方法が簡単でなければならない。)
■ユーザーの一般的理解について
・ボタン:押すもの
・スイッチ:切り替えるもの
・コネクタ:コードなどを接続、あるいは何かを合体させるもの
・開口部:何かを入れるか、何かが出てくるところ
・ディスプレー:見るもの
●これらの部分に製品上の直接表示があると、ユーザーは独学で操作を理解しようとする。
■ユーザーが取扱説明書を見るとき
・まったく分からないとき
今まで使ったことのない製品で、使い方を見たこともない。
・何となく分かりづらそうなもの
○○○の登録、○○○の設定など、ちょっと込み入っているもの。
・操作に自信がないとき
同じような製品を使ったことがあるが、新しく追加された機能についてはよく分からない。
・不安なとき
高価な製品で取り扱いを雑にしたら壊れてしまいそうなもの。
・責任問題が明記されているとき
「○○○を行わなかった場合の事故および有形無形の財産の消失については当社は一切の責任を持ちません」など。
■ユーザーの行動(通常状態)
・好奇心:「どうなるか試してみたい」、「取扱説明書には書いていないが、こんなことはできるのかな」などの行動をする。
・遊び:触れるものはすべて触る。
・操作の上達:キーを非常に早く押したり離したりする。
・操作に慣れると経済的な行動(操作を省いたり先回りの操作)をする。
・ユーザーは基本的には問題を自分で解決しようとする。分からない場合には、まずいろいろいじり回し、そのあとに取扱説明書を見る。
■ユーザーの行動(異常状態:パニック)
・電源コードはコード部を引っ張って抜く。
・コードに足を引っ掛ける。
・メディアや材料を逆さまに入れる。
・表示を読み違える。
・2つのボタン両方に指がかかり同時に押してしまう。
・ぜんぜん関係のないスイッチを押してしまう。
・スイッチの押す順序を間違える。
・ペダルを離さないで逆に踏み込んでしまう。
・メーター読み取り時、対極位置の判断(前/後、右/左、上/下など)で勘違いを起こす。
・製品の企画会議から取扱説明書制作の窓口担当者とテクニカルライターまたはコーディネーターが参加し、ユーザーレベルなど基本的な対象者を理解する。また取扱説明書の形態や冊子のサイズなどを決める。
・製品カテゴリーで要求される法律の制約、業界の統一基準などを把握し、必要であれば国内外の他社の資料を収集する。また安全規格部門、特許部門などの専門スタッフとの連絡をとり、記載内容の指示を受ける。
・社内の類似品との差異対照表を入手(作成)し、取扱説明書の設計資料とする。
・製品上の印刷情報(フィルムのコピーなど)やラベルの資料(図面コピー)を入手する。
・製品が要求する環境条件、設定方法の資料を入手する。
・製品を使っての操作説明を受ける。
・貸し出された製品で操作を習得する。
・操作エラーとその安全レベルを確認する。
・不明点、疑問点などの操作結果のレポートを作成し設計部門に提出する。
・全体の構想(取扱説明書の構成、スケジュール、担当、外注の選定など)を練る。
・使用する用字・用語標準を選定する。
・図版(表紙、図記号、イラスト)についての確認をする。
・ラフな目次(シナリオ)を作成する。
・操作手順のストーリー(チャート)を作る。
・固有名詞(製品名、部分名、部品名、機能名、銘板名、製品上の機能名称など)一覧表を作成し、リファレンスとして使用する。この情報は更新ファイルとして保存する。従来のモデルですでに共通項目と個別の項目を分けたものがある場合は、それぞれを更新していく。
・製品・資料の入手状況によるが、できるところからイベント単位(シナリオを構成している要素)で作業をする。不明点は逃さずメモしていき、レポートとして技術部門へ提出する。
・イラストが必要な部分を特定し、制作指示を書き込む。(イラストのチェックは原稿執筆者が行う。)
・粗稿ができたら簡単にシュミレーション操作を試みる。(執筆者本人でもよい。)
・技術部門へ評価のため原稿を回す。
・何度かの修正を入れながら確定稿を作成する。
書き手が必要な情報を一方的に述べるだけでは、読み手のことをまったく考えていないことになる。最近はPL対応としての注意書が大幅に増えたこともあり、記載すべき情報がずいぶん多くなった。これらは企業側論理の「とにかく何でも危ないことはすべて記載しておけば安心」といったことのようである。もともと取扱説明書には「ユーザーにはあまり読んでもらえていない」という企業側の認識があったにもかかわらず、注意書きを満載することでユーザーの興味をさらに減少しかねない状況である。しかも、それらの文章が簡潔にまとまっているのではなく、読むのに苦痛(何をいいたいのか直感的に分からない表現)であることも多くみられる。取扱説明書の本来の機能を発揮するということは、とりもなおさず取扱説明書を読んで内容を理解してもらうことにほかならない。企業がはじめから取扱説明書の機能を発揮させることを放棄するようであれば、いつまで立ってもCSの向上はないし、また潜在的PLリスクも減少することはないであろう。
ここでは最近の取扱説明書にみられる問題点をいくつか取り上げて考えてみたいと思う。
●安全上の注意として使われる「絵表示」や「マーク」の説明文
例
絵表示について
この取扱説明書(安全編)および製品への表示では、製品を安全に正しくお使いいただき、あなたや他の人々への危害や財産への損害を未然に防止するために、色々な絵表示をしています。その表示と意味は次のようになっています。内容をよく理解してから本文をお読みください。
警告 この表示を無視して、誤った取扱をすると、人が死亡または重傷を負う可能性が想定される内容を示しています。
改善例
警告見出しについて
この取扱説明書(安全編)および製品への表示では、製品を安全に正しくお使いいただくために絵表示付きの警告見出しを使っています。これら見出しの付いた注意書には、あなたや他の人々への危害や財産への損害を未然に防ぐための大事な注意が載っています。警告見出しの付いた注意書は、次のことを知らせています。内容をよく理解してから本文をお読みください。
警告 この指示を無視して誤った取扱をすると、人が死亡したり重傷を負ったりすることがあります。
例
本機をご使用になる前に本取扱説明書をご理解頂くまでお読みください。
取扱説明書中の取扱方法、注意事項をお守りいただかないと、本機の性能を十分発揮できません。また、車輌の損傷や人身事故につながりますので、十分ご理解頂いた上で正しい操作による使用を行ってください。
改善例
この取扱説明書には○○機を使用するために必要な取扱方法と、安全上守っていただきたい注意が載っています。本機を使用する前にこの取扱説明書をよくお読みのうえ、安全に正しくご使用くださるようお願いします。本書に記載されている取扱方法を守らないと、○○機の性能が十分発揮できないばかりか、車輌や○○機の損傷につながります。また、安全上の注意は○○機の取扱いに慣れた方でも必ずお読みください。ちょっとした不注意が重大事故につながることもあります。
例
取扱説明書をお読みになった後は大切に保管し、必要になったときにお読み下さい。
あいまい表現、具体的でない表現があるか?
「必要になったとき」
ここで伝えたい情報は?
・取扱説明書を保管する。(保管期限は製品を使用する間、つまり製品廃棄まで。)
・取り扱いで分からないときには取扱説明書を参照する。
・取扱説明書をすぐ見つけられる場所に保管する。
ユーザーが知りたいことは?
・取扱説明書は何で保管しなくてはいけないのか。
・取扱説明書はいつまで保管するのか。
・取扱説明書が紛失したらどうするのか。
改善例
取扱説明書は、機器の使用中に分からないことが出てきたときに、いつでも読み返せるよう大切に保管して下さい。
<追加の情報>
誰かに取り扱いを説明するときにも、必ず読み返すようにして下さい。
この取扱説明書が汚れたりして内容を読むことができないときや、紛失したときは○○○(お求めの販売店、お客様相談窓口など)に相談(注文)してください。
例
本機の説明が完全に自分のものとなるまでは当製品をご使用にならないでください。
改善例
取扱説明書の内容を十分理解しないまま当製品を使用することは、絶対におやめください。
本機の取扱いについては、安全上細心の注意が必要です。取扱説明書の内容を十分理解しないまま当製品を扱うと、重大事故が起きることがあります。取り扱い説明を完全に理解してから当製品をご使用ください。
例
〜すると火災・けがや周囲を汚損する原因となることがあります。
改善例
〜すると火災が起きたりけがをすることがあり、また周囲を汚したりします。
〜すると火災が起きたりけがをしたりします。また周囲を汚すこともあります。
改善例
非標準ビデオモード設定は、モニターの動作範囲内に入るよう自動設定されますが、未調整のままです。
改善例
画面表示を正しくするためのマニュアル調整も可能です。
改善例
コンピューターの起動完了を示すメッセージと入力を待つプロンプトが表示されます。
標準的な用字・用語の基準を定めている企業もあるが、現実にはその数は多くなく、大手企業でも十分とはいえない状況である。文書スタイルについては、SGMLという国際規格を取り入れている企業も数年前からあり、インターネットのHTML言語もSGMLに準拠していることもあり、今後はCALSの導入によりさらに広まって行くことと思われる。
しかしユーザーサイドから見ると、取扱説明書で大事な用字・用語の基準がないようでは、企業がいかに効率的なシステムを構築しても同じことである。
・文章表記の原則は、「常用漢字表」(昭和56年10月実施)、「現代仮名遣い」(昭和61年7月実施)「外来語の表記」(平成3年6月実施)を参考にし、ひらがな交じり文を主体とし、必要に応じてカタカナ、ローマ字を使うことと考えられる。
・各企業で大体の標準を定めていると思うが、参考例として以下に示す。
●漢字とひらがなの使い方
1. 漢字は原則として「常用漢字」をその音訓の範囲内で使う。
文字は常用漢字でも、音訓に定められていない読みで使っている語が多いので、それらはひらがなに換える必要がある。
例:定められていない読みは使わず、ひらがなにする。
○すべて ×すべて・総て
○およそ ×凡そ
例:正しい読みの漢字になおす。
○生かす ×活かす
○比べる ×較べる
例:言い換えがなく、常用漢字以外のほうが分かりやすい。
○梱包(梱は常用漢字外)
○楕円(楕は常用漢字外)
2. 略字、俗字、あて字は使わない。
例:略字、俗字は使わない。
○年齢 ×年令
○横幅 ×横巾
○締切 ×〆切
○午後 ×午后
例:あて字はひらがなに直す。
○おとな ×大人
○くだもの ×果物
例:「ヶ」、「ヵ」は使わない。
○3か月、3カ月 ×3ヵ月、3ヶ月
○5個 ×5ヶ
3. 同音異義語、同訓異義語に注意する。
カイテイ 改訂
改定
アタイ 値
価
アラワレル 現れる
表れる
4. 接続詞や連体詞などにはひらがなを使う。
例:ひらがなで書くもの。
接続詞/および(及び)、また(又)、かつ(且つ)
連体詞/この(処の)、ある(或る)、その(其の)
助動詞/〜のように(〜の様に)、〜ください(〜下さい)
接頭語/オ〜(御)、〜ごと(毎)、〜かぎり(限り)
例:漢字で書いたほうが分かりやすいもの。
一応、一般に、実際に、主に
5. 送りがなの付けかたは原則として本則による。
◇活用のある語は活用語尾を送る。
書く、考える、助ける、濃い
例外
・“し”で終わる形容詞は“し”から送る。
著しい、珍しい
・“が”、“やか”、“らか”を含む形容動詞は次のように送る。
明らかだ、細かだ、静かだ
・以下の語は次のように送る。
明るい、大きい、少ない、小さい、同じだ、平らだ
・活用語尾の前の音節から送れる語(カッコ内)
表す(表わす)、現れる(現われる)
・読み違いのない場合、送り仮名の一部を省ける。
押さえる(押える)、変わる(変る)、当たる(当る)
◇活用のない語
・次の名詞は最後の音節を送る。
後、斜め、互い、勢い、一つ、二つ
・読み間違える恐れのない場合、送りがなの一部が省ける。
届け(届)、願い(願)、答え(答)
・以下の語は次のように送る。
大いに、直ちに、並びに
◇複合語
・活用のある語
申し込む、打ち合わせる、長引く、待ち遠しい
・活用のない語
斜め左、手渡し、生き物、取り扱い、大写し
・読み間違える恐れのない場合、送りがなの一部が省ける。
申し込む(申込む)、打ち合わせる(打合せる)
取り扱い(取扱い、取扱)
段組み
・ポインティング
・動きを示す
・方向を示す
・範囲を示す
・寸法線
・イラストの製品上の表示と混乱するものは不可
・イラストは手または指を使用すると操作感が直接的に示せる。
・禁止シンボルの使いかた
・色の濃さ、網の選択
・イラストの問題点
・悪い例および改善例