1996.9 Vol.33  発行 1996年9月7日
発行人 中澤 滋 ASP研究所長野県松本市梓川梓3072-12 Tel. 0263-78-5002


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食肉処理に新基準、厚生省方針/「O157」受け10月から
食品衛生規制、米が相次ぎ強化
JR東海側が全面対決姿勢/こだま死亡事故訴訟
エアバッグ作動の停止スイッチ/幼児搭乗助手席で、米が装着義務化
新型シートベルト国内初の実用化/日産
ベンゼンやダイオキシン 有害物質22種類/環境庁抑制図る
大気中の「ダイオキシン」、松葉で監視/摂南大グループ、全国で存在を確認
追放!無駄なアイドリング/兵庫は条例で規制
冷蔵庫やパソコン、リサイクル義務化へ/メーカー対象に 通産省検討へ
肺がん−−「たばこに欠陥」/会社側に賠償命令 米州地裁評決
喫煙は本人の責任」/米肺がん訴訟、たばこ会社が勝訴
たばこ広告・販売制限/米大統領発表 未成年喫煙に歯止め

8月のニュースから

■食肉処理に新基準、厚生省方針/「O157」受け10月から
 病原性大腸菌O157による食中毒の広がりを受け、厚生省は14日までに、食肉の安全性を高める抜本策として、全国333カ所のと畜場での牛肉や豚肉の処理に、10月から新しい衛生管理基準を導入する方針を固めた。厚生省研究班が9月にガイドラインを作成、と畜場法施行規則の改正で対応する予定だ。
 細菌汚染の少ない解体法や、作業の各過程での微生物検査、記録保存を義務付ける。作業全体を計画的に衛生管理することで安全性を確保する「総合衛生管理製造過程」という制度で、米国が宇宙食製造用に導入したHACCP(ハサップ、危害分析重要管理点方式)の日本版に当たる。
 昨年の食品衛生法改正で、乳製品やハム、ソーセージでは、同様の制度の導入が既に決定。食肉については、今年6月に発足した厚生省研究班で約1年かけ指針を作る予定だったが、O157の食中毒多発で作業の大幅前倒しを決め、8日の衆院厚生委員会で小野昭雄・生活衛生局長が導入方針を示していた。
 同省は先月末、@解体時に腸の内容物が肉に付かないよう食道や直腸を縛るA解体刀は消毒殺菌する−−などの措置を自主的にとるよう指導した。 新基準は、これらの対策に加え、解体の過程での微生物チェックや、解体後の保存方法などを定める。詳細な記録を残すことで、仮に食中毒が起きた場合でも原因が究明しやすくなると期待している。

 米国並みの厳しい衛生管理を実施し、米国への牛肉輸出が認められている食肉卸売市場は、全国に鹿児島、宮崎と群馬の3カ所あります。
 これらの市場でも当初は大変だったようで、ナイフをいちいち消毒することから始まり、床は不浸透製の腐食しない材料の指定、作業場の明るさは330ルクス以上など米国は作業手順から施設の構造まで要求してきました。ハサップ方式は米国方式をさらに厳格にするもので、現場での対応にはかなりの厳しさが予想されます。
 問題は多くの施設で「すぐには無理」という声が上がっていることです。O157問題でやっきになっている厚生省ですが、食品、化粧品、薬品等厚生省管轄の業界では不正表示やデータの改ざんなど、よくニュースになります。業者が基準を遵守するかどうか、業者まかせの部分が多いと問題になるでしょう。
■食品衛生規制、米が相次ぎ強化
 クリントン米大統領が食品衛生の管理を強化する。「O157」などによる汚染を防止するため、7月に90年ぶりに食肉安全基準を改正したのに続き、6日には飲料水の衛生基準強化法案に署名した。11月の大統領選挙を控えたクリントン大統領は署名後「水はより安全になり、米国はより健康になる」と強調した。
 飲料水の衛生基準強化は州政府に消費者への水質調査報告を義務付け、水質が基準以下に悪化したことが分かった場合24時間以内に警報を出す。州政府による浄水施設の拡充を支援する融資制度も新設した。
 食肉安全基準の改正では、宇宙食の安全確保のため開発した品質管理プログラムの導入を食肉工場に命じたほか、農務省に食品調査の中心となる「技術サービスセンター」を設けた。

■JR東海側が全面対決姿勢/こだま死亡事故訴訟
 東海道新幹線の三島駅で昨年12月末、「こだま」のドアに指を挟まれたまま引きずられて死亡した私立高2年、河原崎裕輔さん(当時17)の両親が、「事故は会社が安全対策を怠ったために起きた」などとしてJR東海に約1億7000万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が31日、静岡地裁沼津支部(園田秀樹裁判長)で開かれた。
 JR東海側は事前に提出した答弁書の中で、会社には責任はないとして全面的に争う姿勢を見せた。 一方、河原崎さん側は父親の康雄さん(42)が意見陳述し「安全対策が不備のまま経済優先で列車を運行すれば今後も同様の事故が起きる」とJR側の経営姿勢を批判した。

 「JR東海側は責任がないというのですが、従業員の過失が立証された場合の管理責任がどうなるのか、興味のあるところです。

■エアバッグ作動の停止スイッチ/幼児搭乗助手席で、米が装着義務化
 全米高速道路交通安全局(NHTSA)は、幼児を助手席に乗せた場合には同席側のエアバッグの作動を停止させるスイッチを乗用車にも採用する方針を打ち出した。今後、ヒアリングなどを経て年末頃までに正式決定する。
 現在、乗用車には運転席と助手席にエアバッグの装着が義務付けられているが、幼児を助手席に乗せ、シートベルトをしない場合、エアバッグの衝撃で死亡するケースがある。NHTSAによると、これまでに22人が死亡している。

 ASPニュース96年2月号で紹介したボルボ車の見解や、同4月号での米国で起こされた裁判、また同6月号での米政府の「エアバッグの正しい使い方」キャンペーンなど次々とエアバッグの危険性のニュースが入ってきました。
 と、思ったらもう米国では義務付けの方向で検討されているわけです。安全に対する行政サイドの対応は日本に比べ格段の速さです。日本ではエアバッグの義務付けすらまだないのですから。

■新型シートベルト国内初の実用化/日産
 日産自動車は1日、全面衝突の際に乗員への衝撃を緩和する新型のシートベルトを開発したと発表した。衝突時にベルトのたるみを瞬時に巻き取り拘束力を高める一方、ベルトの張力が一定値を超えると自動的にベルトが伸び、過重な負荷がかからないようにする。乗員の胸部への圧力を和らげ、肋骨の骨折などを防止する。
 同様の機能を持つシートベルトは独メルセデス・ベンツなど欧州車メーカーが実用化しているが、国内では初めて。
 来春発売の乗用車から採用する。

 安全のための装置が完全でないことはよくあることです。「これはいいニュースだ」と一瞬思ったのですが、海外メーカーではすでに実用化しているというので少々がっかり。
 先進安全技術を駆使した日本車のプロトタイプのニュースは多くありましたが、現在採用されている安全技術を検証し、さらに安全レベルを高める機構などは欧米の後追いが多いのが現状です。
 「誰のための安全なのか」で、日本と欧米企業の根本的な違いがあるならば残念なことです。

■ベンゼンやダイオキシン 有害物質22種類/環境庁抑制図る
 環境庁は21日までに、健康を害する恐れのある大気中の化学物質のうち、化学工場などから出るベンゼンや、廃棄物の焼却で発生するとされるダイオキシン類など22種類を、ほかの物質に比べ危険性が高いとして、排出抑制に優先的に取り組む方針を決めた。
 この22種類を「優先取り組み物質」とする有害大気汚染物質リストを中央環境審議会で秋をめどに最終決定。事業者に自主的な排出抑制を求めていく。
 また事業者側の参考となる指針づくりを進めるほか、有害性の程度や大気中の濃度、発生源について全国レベルの詳細な調査研究に乗り出す考えで、来年度予算の概算要求に盛り込む方針だ。

 これで欧米に比べ遅れているといわれてきた大気中の有害化学物質の規制がやっと動き出しました。
■危大気中の「ダイオキシン」、松葉で監視/摂南大グループ、全国で存在を確
 認

 廃棄物の焼却場などから主に発生し、史上最強の毒物ともいわれるダイオキシン類が全国の大気中に広く存在していることを、摂南大(大阪府枚方市)薬学部の宮田秀明教授(環境学)らが日本列島各地に分布する黒松の葉を分析して確かめた。大気を直接調べる今の方法では大がかりな装置が必要で時間も長くかかる。気象条件によるデータの変動も大きく全国調査は難しかった。
 成果は12日からオランダで開かれるダイオキシンの国際シンポジウムで発表する。
 松の葉の表皮にはダイオキシン類が溶けやすいワックス(脂肪)が多い。宮田教授らは、葉に付着したり呼吸で気孔から取り込まれた大気中のダイオキシンがこのワックスに蓄積されると考えた。
 昨年1〜4月、北海道、岩手、神奈川、島根、福岡など11道府県内の各1地点から黒松の葉を採取。成分を抽出して分析した結果、全地点からダイオキシン類が検出された。

 ちょっとした目のつけどころに専門家と素人の差があるものです。
■追放!無駄なアイドリング/兵庫は条例で規制
 環境庁は今年6月の環境月間で、初めて「アイドリング停止」を目玉に据えた。荷物の積み下ろし中や、だれも乗車していないときはエンジンは切るよう業界に向けてパンフレットやステッカーで訴えた。
 窒素酸化物(NOx)による大気汚染が深刻な兵庫県は7月、駐車中、運転手が不在のときにエアコンをかけるなど無駄なアイドリングには10万円以下の罰金を課すとの罰則つきの条例を施行した。
 東京都交通局は3年前、路線バスに「アイドリング・ストップ&スタートシステム」を採用した車を4台導入した。これは車の停止・発信に合わせエンジンが自動停止・再スタートするシステムだ。
 当初は「何度もエンストして変だ」「運転がへた」と乗客から苦情もあったが、都民にも徐々に浸透、今年3月末現在で122台(東京都の路線バスの約7%)が稼働中だ。このシステムの搭載車は全国で300台以上に上る。
 東京都環境科学研究所の93年の調査によると、都内全てのディーゼル車が渋滞時のアイドリングをやめると、NOxは年に1520トン削減される。これは自動車から排出される年間のNOxの2.9%に相当する。

 ドイツなど、アイドリングに対するドライバーの意識が高いところでは当たり前なのですが、日本ではまだまだ遅れています。
 ところで、駐車場で“前向き駐車”と指定されているところがありますが、植え込みなどの植物のため、ということも多いようです。指示は守りたいものです。
■冷蔵庫やパソコン、リサイクル義務化へ/メーカー対象に 通産省検討へ
 通産省は、廃棄された冷蔵庫やパソコンなどの電気・電子製品の処理問題が深刻化しているため、製造元の家電メーカーなどに対し、新たにリサイクルを義務化する検討に着手する。同省筋が22日明らかにした。今後業界と調整するが、義務化のための新法を制定する案も浮上している。
 次から次に出ていまだ開発途上の様相を見せているパソコンの急増で、いろいろな問題が深刻化しています。電力事情と中古パソコンのゴミ問題では、今すぐの対応が求められています。
 パソコンや家電製品ではこのほかにも、プリント基板のハンダに含まれる鉛が酸性雨で溶け出し、地下水に浸透し河川に流入している問題もあります。

■肺がん−−「たばこに欠陥」/会社側に賠償命令 米州地裁評決
 【ジャクソンビル(米フロリダ州)9日AP=共同】米フロリダ州ジャクソンビル地裁の陪審は9日、たばこの害のため肺がんにかかったとして、66歳の男性がたばこ会社に損害賠償を求めた訴訟で、会社側に総額75万ドルの支払いを命じる評決を下した。
 賠償を命じられたのはブラウン&ウィリアムソン・タバコ社。同社の弁護士は控訴する意向を表明した。 原告のグレイディー・カーターさんは、1947年から「ラッキーストライク」を吸い続け、肺がんにかかったとして約150万ドルの支払いを求めていた。
 評決は、たばこは欠陥商品であると判断、会社側が危険性の周知を怠ったとしている。
 米国では88年に、同様の訴訟でたばこ会社に40万ドル(約4320万円)の損害賠償を命じた例があり、たばこがらみの賠償命令としては今回が2例目。88年の訴訟では控訴審で逆転敗訴した原告側が、訴えを取り下げている。

■「喫煙は本人の責任」/米肺がん訴訟、たばこ会社が勝訴
 【ニューヨーク23日共同】肺がんで死んだ男性の遺族が、たばこ会社4社を相手取り、最低42万4000ドル(約4500万円)の損害賠償を求めていた裁判で、米インディアナ州マリオン郡の陪審は23日、喫煙は本人の責任であり、たばこ会社に責任はない、とする評決を下した。
 今月はじめ、フロリダ州陪審が同様の裁判でたばこ会社の責任を認める評決を下しており、陪審の判断が分かれる結果になった。
 訴えていたのは1987年に肺がんのために52歳で死んだ男性の遺族。この男性は1日3箱を吸うヘビースモーカーだったが、たばこ会社はニコチンが習慣性のある薬物であり、喫煙には危険性が伴うことを知りながらも、製造、販売した、として製造物責任を追及していた。
 これに対して、フィリップ・モリスやRJレイノルズなどたばこ会社側は、害があることを警告していた、などと反論していた。

 今月はたばこの裁判で異なった陪審評決が出ました。米国では、たばこの集団訴訟で会社が和解し賠償金を支払うことで決着したケースもあり、今後もいろいろなケースが出てくると思います。
 米国でのたばこビジネスが衰退する一方なので、先進諸国の中でいまだ高い喫煙率を誇る日本が狙われる、という指摘もあります。
 ASPニュース96年4月号で少し触れた、名古屋地裁で審理中のJT相手のたばこ訴訟の口頭弁論は、6月に行われたようです。

■たばこ広告・販売制限/米大統領発表 未成年喫煙に歯止め
クリントン米大統領は23日、たばこを「中毒性のある薬物」と認定、連邦政府の規制対象とする嫌煙政策を発表した。米食品医薬品局(FDA)に管轄権を与え、未成年者を対象とする広告を厳しく制限する。大統領は「喫煙は米国民が直面する最大の健康問題だ」と宣言した。 ◆規制策の骨子  クリントン米大統領が23日発表した10代の喫煙規制策の骨子は次の通り。

・10代の喫煙率を今後7年間で半減させる
・たばこに含有されるニコチンを習慣性薬物と指定。たばこを米食品医薬局(FDA)の
 規制対象に
・購入時に、喫煙が認められている18歳以上であることを示す身分証明書の提示義務付
 け
・ナイトクラブなど一部の施設を除き自動販売機の設置禁止
・学校・遊び場から約330メートル以内での広告の禁止
・たばこ製品名を冠したスポーツ大会などの後援禁止
・10代向け出版物での広告は白黒の文字のみで写真などは禁止
・たばこ製品名を付けたTシャツ、帽子の禁止
・今後、半年から2年以内に段階的実施

 選挙がらみもあるとのことですが、非喫煙者にとってはこの決断のできる国がうらやましいものです。

終わりに

 食品業界が注目しているHACCP(ハサップ)システムについて少し紹介します。
 1960年代に米国において開始されたアポロ計画の一環として宇宙食の微生物学的安全性確保のために考え出され、1971年に初めて公表されたものです。 そのHACCPシステムの基本的考えを示す7つの基本原則を次に記載します。

1. 原材料の生産から最終製品の消費に至るあらゆる段階において危害分
 析を行って発生する恐れのある危害を明らかにし、その防止措置を明
 確にすること。
2. 危害を除去または発生の可能性を最小限におさえるために管理すべき
 場所、手順、作業段階においてCCP(重要管理点)を決定すること。
3. 各CCPが適正に管理されていることを確認するための管理基準を確立
 すること。
4. 各CCPの管理状態を計画的にモニタリングするシステムを確立するこ
 と。
5. モニタリング中に特定のCCPが管理基準から逸脱した際にとるべき改
 善措置を確立すること。
6. HACCPシステムが有効に機能しているかどうかを確認するための検証
 方法(試験・検査法を含む)を確立すること。
7. 上記原則ならびにその適用に係わるすべての手段および記録に関する文書保管システムを確立する
 こと。
 

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